覚え書き 11
11.悪役令嬢の処遇が決まりました
翌日、校長室に呼び出しがあった。王太子とマールバッハ男爵令嬢、コースフェルト侯爵令嬢も呼び出されたらしい。
なんでこの面々と一緒に俺が呼ばれるの?
ため息を一つつくと、俺は校長室のドアをノックした。
「入りなさい」
「失礼します」
ドアを開けると、そこには校長と国王陛下、王太子とマールバッハ男爵令嬢、コースフェルト侯爵令嬢、そしてもう一人。…誰?
「はじめまして、エルヴィンといいます」
…ちょっと待って?第二王子殿下じゃないか!なぜこんなところにいるの⁉︎
呆然としてエルヴィン・ヨーゼフ殿下を眺める俺に校長先生が告げた。
「エルヴィン・ヨーゼフ殿下は先日留学先からお戻りになられ、このたび当学園に編入されることになりました」
「よろしく、ファーレンハイト伯ヴェルナー君」
「よ、よろしくお願いします。エルヴィン・ヨーゼフ殿下」
俺は差し出されたエルヴィン・ヨーゼフ殿下の右手を握った。
「で、父上はともかく、なぜエルヴィまで呼び出したのだ?」
「予が連れてきたのだ。編入手続きのためにな」
「そういうことです。これからよろしく、兄上」
「フリッツ様の弟なんですか?ステキ!よろしくエル様」
あいたたた。またやらかしちゃったよ。なんなの?この令嬢。
「そなたは?発言を許した覚えはないが」
「あ、すいませんでした。あたしはヴィルマ・フォン・マールバッハです。よろしくお願いします」
「マールバッハ男爵令嬢か、そうか」
意味ありげに国王陛下がうなずいた。知ってるね、これ。
「フリードリヒ、これがそなたの申す王太子妃にふさわしい者か」
「そうです」
「そうは見えぬがな」
「え?それどういう…」
「そなたの発言は許してはおらぬ」
「!!」
マールバッハ男爵令嬢がびっくりしたように肩を跳ね上げる。
さて、どうなるのかな。
「フリードリヒ、もう少しどうにかならぬのか」
「ち、父上!」
「このままではこの令嬢がそなたの隣に立つことはないと思え」
王太子ががっくりと肩を落とした。
国王が思ったより、マールバッハ男爵令嬢は酷かったらしい。俺はちらっとコースフェルト侯爵令嬢を見た。
「そなたもコースフェルト侯爵令嬢の方が、相応しいと思うだろう?」
しまった、見られたか。
「王太子妃としては、コースフェルト侯爵令嬢は完璧かと思われます」
「この王子には、マールバッハ男爵令嬢でいいと申すのだな」
「え?え…と…」
下手に答えられない。もたもたしていると、国王陛下が笑い声をあげた。
「よい、案ずるな。実は公式にはまだ発表されてはいないのだが、このところの王太子の言動があまりにも目に余ると、門閥貴族たちから意見が上がっておってな。第二王子を呼び戻し、改めて予の跡継ぎを決めようと思うのだ」
それで関係者が呼ばれたのか!って、俺は関係者じゃないし!
「そこでコースフェルト侯爵令嬢は、第二王子の婚約者とする」
え?なんかとんでもないこと仰ったよ、国王陛下。コースフェルト侯爵令嬢も目をまん丸にしてるし。
「そんな…」
「そなたは黙っていろ!父上、なぜ今になってそのようなことを仰るのですか!」
さすがにマールバッハ男爵令嬢の発言を止めたか、バカ王子。
「そなたが貴族諸侯の信用をなくしたからだ。このままそなたが王に即位すれば、この国は分裂し、最悪の場合は消滅するであろう」
そこで第二王子というライバルを出してきて、目を覚まさせようという魂胆か。
もし失敗しても第二王子を次期王に据えればいいと。
さすが一国の王。俺は一人納得してうなずいた。
「そしてヴェルナー・フォン・ファーレンハイト、そなたは改めてエルヴィン付きに任命する」
え?ここで俺の配置換えの発表をするの?バカ王子から離れられるのは嬉しいけど。
「父上、なぜヴェルナーを弟にくれてやるのですか!」
俺は物じゃないし。だいたい王子は俺のこと嫌っていたんじゃないの?
「異なことを申す。そなたはヴェルナーを辞めさせたがっていたではないか」
「そ、それは…」
「願いが叶ってよかったではないか。のう、ヴェルナー」
いきなり俺に振らないでくれませんか?
「私は国王陛下の命を全うするのみでございます」
俺は右手を左胸に当てて頭を下げた。
顔を上げるとき、第一王子を見るフリをしてマールバッハ男爵令嬢の表情を伺ったが、わりと平然としていた。俺の配置換えはゲームのシナリオにあったのかな?