覚え書き 15
15.お茶会に招かれました
ところどころに立っている近衛騎士に目で挨拶しながら、長い廊下を進んでいく。やがて色とりどりの花が咲き乱れた中庭に辿り着いた。
「今日は外でお茶をいただこうと思ってね。気に入ってくれれば嬉しいよ」
「とても素敵なお庭ですわ。わたくしが入ってもよろしいのでしょうか?」
「遠慮なく入っていいよ」
第二王子殿下が優しい笑みを浮かべて、コースフェルト侯爵令嬢を席に案内する。
二人が席に着くと、侍女が紅茶を差し出した。
「君の好物が分からなかったから、女の子が好きそうなお菓子を用意させたよ」
「ありがとうございます。どれもとても美味しそうですわ」
後ろに控えている俺からは見えないが、女の子好みの甘味がずらっと並べられていることだろう。
第二王子殿下の指示で、コースフェルト侯爵令嬢の前に次々とお菓子が並べられていく。
「目移りしてしまいますわね」
「全部食べてもいいんだよ?」
「えっ…?」
さすがにそれは多すぎるだろう。ぽっちゃり令嬢にしたいとかなのかな?
「嬉しいですわ。では遠慮なくいただきます」
え?食べちゃうの?体重云々の前に、お腹壊しちゃうよ?
そんな俺の心配をよそに、コースフェルト侯爵令嬢はにこにこ笑顔の第二王子殿下の目の前で、王室御用達かもしれないお菓子を口に運んだ。
「美味しい?」
「とっても美味しいですわ」
声が幸せそうだ。
政略結婚だからといって、相手とコミュニケーションをとらなくていいわけではない、とエルヴィン殿下は考えているようだ。
お茶会が終わり、コースフェルト侯爵令嬢を見送りながら第二王子殿下が呟いた。
「頬についたクリームを掬い取って舐めてあげたかったなぁ」
それ、作法が完璧な侯爵令嬢じゃ無理でしょう。
「あ、でもそれはマールバッハ男爵令嬢の得意技か」
「技って…」
「技でしょう。マールバッハ男爵令嬢の場合、全てが計算ずくに見えるんだよ」
「それはわかるかもしれません」
声になってたのか。失敗、失敗。
「噂話など殿方がなさるものではありませんわよ?」
唐突に後ろから声が聞こえてきた。
え?こんなところで女性の声?
「母上。このような場所で一体どうされたのですか?」
「ご挨拶ね。可愛い息子の顔を見にきただけなのに」
「母上が今さら私の顔をわざわざ見に来るわけないでしょう?本当は?」
「未来の義理の娘を見にきたのよ。悪いかしら?」
「最初からそう仰ってくださればよかったのに」
「だって、それじゃあ許可が下りないじゃない」
実の息子に会うのにも許可がいるのか。側妃やるのも大変だな。
「なに同情する目で見ているんだい?」
「なにをおっしゃいます。羨望の眼差しで眺めておりました」
「ふん、ああ言えばこう言う」
聞こえてますよ、心の声。
「未熟者でごめんなさいねぇ」
「いえ、とんでもない」
「二人とも何気に非道くありませんか?」
否定して欲しかったのか。
「あら、貴方の精進が足りないのに?」
「……」
容赦がない。エルヴィン殿下はぐうの音も出ないみたいだ。
「はぁ、もういいです。母上、私の婚約者とはいずれ場を設けますので、今日のところは帰っていただけませんか?」
「まあ、貴方の婚約者に会わせてくれるの?嬉しいわ」
第三王妃様が胸の前で両手を合わせる。本当に嬉しそうだな。
「それじゃ、これで失礼するわ。約束忘れちゃダメよ」
ウインクをして去っていく第三王妃様の後ろ姿を眺めつつ、俺は呟いた。
「色々と自由な御母堂ですね」
「あの性格が国王陛下に好まれてるからな。ずっと直さないでここまできたんだよ」
第二王子殿下が遠い目をしている。
「しかも正妃陛下にも好ましく思われている」
「それは…あるかもしれませんね」
俺も遠い目をして答えた。
第二王妃は訳あって子を残せません。
そして正妃以外の敬称に悩んでいます(うーむ)