覚え書き 13
13.第二王子ってどんな人?
あれから数日。なぜか俺はコースフェルト侯爵から呼び出されていた。
いったいなんの話しなのか戦々恐々としながら、出された紅茶に形だけ口をつけていると、客室の扉が開く音がした。
「待たせて済まないね。ヴェルナー君」
随分フレンドリーだな、侯爵様。
俺は紅茶の入ったカップを置き、立ち上がった。
「ご無沙汰しております、侯爵様。その後コースフェルト侯爵令嬢はいかがお過ごしでしょうか」
「うむ、まあ座りたまえ。娘はつつがなく暮らしている。呼んでこさせようか?」
「いえ、お構いなく」
べつに会いたいわけではないです。
婚約者のいる令嬢に会いにきたとか思われたくないし。っていうか呼び出されたんだし。
俺は再びソファに腰掛けた。
「冗談はさておき」
冗談だったのかよ!
「君はもう第二王子殿下とは顔を合わせているな。そこで聞きたいことがあるのだが…」
なんだろう?
「君から見て、第二王子殿下はどのような方に見えるだろうか」
うーん、どのような方だろうね?
俺が顎に手を添えて考え込んでいると、コースフェルト侯爵が言葉を変えて尋ねてきた。
「あの元王太子と比べて、王位を継ぐにふさわしいと思うか?」
あー、なるほど。そういうことね。
「私個人の意見でよろしいでしょうか?」
「もちろん、構わない」
「では申し上げます。私は第二王子殿下の方がふさわしいと思います」
バカ王子と比べるとなんて、失礼な気がするけどな。
「君ならそういうと思ったよ。ではファーレンハイト家は第二王子殿下派だね」
え?ちょっと待って?
「あの、すいません、侯爵様。私は国王陛下直々に、第二王子殿下の護衛を仰せつかっておりますので、家はまた別ではないかと」
「おや、君の親御さんはあの第一王子殿下を推すのかね?」
意地が悪いな!
「そう仰られると否定してしまいそうになるのですが、まだ両親の意向を確認しておりませんので、この場でのご返答は差し控えさせていただきます」
「なるほどね。上手いこと逃げるね」
侯爵様がニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべている。
なんだか胃が痛くなってきた。
「私のような若輩者が家の将来を決めるわけには参りませんので」
領民も一蓮托生だからまだ俺には荷が重すぎるって。
「その気持ちはわからんでもないな」
わかってくれたようで何より。
「だが君は第二王子殿下につくのだろう?」
「そうですね。国王陛下の命令ですから」
「国王陛下の命令がなかったら?」
「お答え致しかねます」
「なかなか堕ちないね〜」
コースフェルト侯爵が実に楽しそうに攻めてくる。
お願いだからやめてあげて!
俺のライフはゼロ……じゃないか。
とにかくトドメを刺される前に逃げたい。
逃げるための口実を必死に探していると、コースフェルト侯爵が人の良さそうな笑顔を浮かべた。
「おや、紅茶が冷めたようだね。新しいのを煎れさせるよ」
「いえ、お構いなく」
「遠慮しなくてもいいのに」
いや、延長戦はご辞退申し上げます。
「猫舌ですのでこれぐらいがちょうどいいんです」
紅茶を飲み干し、カップをソーサーの上に置く。陶器の触れ合う高い音が、小さく鳴った。
「では、本日はこれで失礼させていただいてよろしいでしょうか」
「そうだね。このままじゃ進展はないだろうし、また日を改めて尋ねるとするよ」
俺にじゃなくて父上に尋ねてほしい。
とりあえず俺は今日のところは家に帰っていいことになった。
帰ったらどっちの王子派に入るか聞いておかないと。
帰りの馬車の中で俺は大きなため息をついた。